« 秩父巡礼 その1 | トップページ | 玉川上水 »

2010年11月13日 (土)

街道をゆく

年末近くになると、NHKでは昨年の続きで「坂の上の雲」を放映するそうである。
1年前にやったテレビドラマの内容などは、ほとんどの人が忘れてしまっているだろうに、このような企画をするNHKの神経がわからない。
「国民的作家」である司馬遼太郎の代表作であるからには、当然ビデオ等でとってあるだろうから、それで復習してから見ろとでもいうのであろうか

私は司馬作品はほとんど読んでいない。
それは大学のゼミの指導担当であった中村先生が司馬史観に批判的で、それに関する本も出していることに影響されているのかもしれない。
特に批判の中心となっているのは「坂の上の雲」なのであるが、論点は次の二点である。

1.司馬氏が「この本は事実のみを基にして書かれている」とあえてフィクションでないとしているにもかかわらず、史実に反することが多数盛り込まれている。
2.司馬史観では明治維新後の日露戦争までを肯定的に描き、日露戦争後から太平洋戦争までの日本史を否定的に捉えているが、それは正しい見方ではない。なぜならば日露戦争までの日本の近代化のあり方に内包していた矛盾が、やがて太平洋戦争に突入していった根本原因を成しているからなのだ。

1については、そのとおりかもしれないが、歴史家というプロから見れば、アマに過ぎない歴史好きの作家に対する批判としてはやや酷かなという気がしないでもないが、2については全く同感である。
太平洋戦争とそれに先立つ満州事変という激動の15年間は、その激しい渦の中では歯車を逆回転させることはほとんど不可能であったろうと思う。
やはり、そうなった原因を明治維新に遡って見ていかなければならない。
まず、明治維新そのものが「革命」としては中途半端なものであった。たしかに今までの支配層であった士族階級は没落したが、被支配層の大多数を占めていた農民は解放されなかった。それどころか商品経済の発展によってまずます没落していった農民層は地主・小作関係の体制に深く組み込まれていってしまった。このことによる農民層の困窮が国内購買力の欠乏をもたらし、ひいては海外市場獲得→海外侵略への大きな誘因となったことは間違いない。

江戸時代からも頻発していた農民一揆は明治時代になると自由民権運動と結びついて、秩父事件に代表されるように、全国的に大きなうねりとなり、国会開設請願運動や憲法制定運動といった「下からの改革」を目指すようになったが、それらは山県有朋らによる運動指導者への懐柔も含めた徹底的な弾圧によって根絶やしにされてしまった。
維新の三傑といわれた西郷、大久保、木戸はいずれも比較的若い時に他界してしまったために、その後の明治政府は伊藤博文と山県有朋の二人によって動かされてきたが、帝国憲法を制定して初代総理大臣となった伊藤博文にはまだ「進歩的」な側面が多少なりともあったといえないこともなかったが、山県有朋はまさに反動そのものの人物であった。彼は自由民権運動を弾圧するだけでなく、その後の民主主義の芽も潰すことになる治安維持法を制定しただけでなく、その後の軍部の独走を許すことになる統帥権の独立を認めさせてしまったのである。

明治政府の行った①地主制の温存による国内購買力の疲弊②民主運動の徹底的弾圧③統帥権の独立の三つの誤りが、世界恐慌という大荒しの中で太平洋戦争に必然的に結びついてしまったわけであり、日露戦争までは、その矛盾がほころびていなかったというだけである。
このあたりのことになると、言いたいことは山ほどあってブログには書ききれないが、国民の圧倒的支持を得ている司馬史観という準教科書的なものに対して一石を投じた中村先生にはあらためて敬意を表したい。
ついでに言えば、現在の坂本龍馬ブームも司馬作品によって一般化したといえるが、彼の最大の功績といえる薩長同盟にしても、彼自身の果たした役割はさほど大きなものではなかったという説もあるようである。

司馬遼太郎を散々に言ってしまって、ファンの方には申し訳けなかったですが、唯一、司馬作品の中で愛読しているものがあり、それがタイトルに書いた「街道をゆく」である。
全43巻で日本各地だけでなく、諸外国にも足を向けている。
私がこの書を愛読するのは、単なる紀行文ではなく、その土地々々について、歴史地誌を実に丹念に調べていて、なまじっかなガイドブックを読むよりははるかに役に立つからである。
知らない土地に行く前にこの本を読んでから行くと、地名ひとつにしても深く心に印象に残るという意味から、この本をすすめたい。

|

« 秩父巡礼 その1 | トップページ | 玉川上水 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 街道をゆく:

« 秩父巡礼 その1 | トップページ | 玉川上水 »