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2015年10月11日 (日)

伊東光晴著「アベノミクス批判」

伊東光晴著「アベノミクス批判」を読んだ。アベノミクスは第一の矢である「異次元の金融緩和」は円安と株高によって資産家や輸出関係の大企業には利益をもたらしたが、一般国民にはなんの恩恵も与えておらず、第二の矢である財政政策は公共投資により、建設関連業を潤し、その波及効果を他の業種にも及ぼそうとするものだが、予算的な制約からほとんど効果をもたらしておらず、第三の矢である民間の活力については掛け声倒れに終わったというのが自分の認識であったが、この本によると円安・株高もアベノミクスの効果ではなく、安部政権はまたくの経済無策内閣だというのだ。

著者の伊東光晴氏は私の学生時代にはケインジアンとして名高く、多くの著作を読ませてもらったものである。私は元々はマルクス経済学の勉強に重点を置いていたが、それと対立する近代経済学の中ではケインズ理論については、解説書レベルではあるが多少はかじったりした。両者の違いは大雑把に言えば、マルクス経済学は生産力というものに着目した供給サイドの経済学であるのに対して、ケインズ理論は有効需要に着目した需要サイドの経済学であるという点である。この二つの異なった理論を自分の中でどう折り合いをつけていたかというと、自分の専攻である経済史の分野ではマルクス経済学を、現実の経済の分析や経済対策ではケインズ理論を信奉してきたと言える。

近代経済学の中ではもうひとつの勢力として新古典派という人々の主観が経済行動を左右するという考えがある。こんなものは社会科学の名に値しないと真面目に勉強もしてこなかったが、社会人になってまもなくして新古典派の流れをくむマネタリストと呼ばれる一派(その代表格はフリードマン)がケインジアンを凌ぐほど勢力を広げ、アメリカのレーガン大統領の経済政策であるレーガノミックスを主導するまでになったことは有名である。さらにマネタリストの中から金融工学というものが生まれて、それを活用したデリバティブという詐欺まがいの商品がリーマンショックを惹き起こして世界中に大混乱を招いたことは記憶に新しい。

アベノミクスの理論的支柱である日銀の黒田総裁や岩田副総裁はこのマネタリストであり、金融緩和による金利低下が投資を呼び起こすという主張をおこなってきた。これに対して伊東氏は、経営者の投資判断は投資効果によっており、コンマ以下の金利低下は投資判断には影響を及ぼさないとして、マネタリストを痛烈に批判されている。また今回の株価の回復は世界的な株式市況の回復基調を反映して民主党政権末期から起きている現象であって、アベノミクスとは関係ないとのことである。また低金利政策による円安効果も各国が低金利政策をとっている状況ではほとんどなく、今回の円安傾向は為替介入がおこなわれた結果であることを証拠をあげて説明されている。そして円安による経済効果もさほど大きくはないことをトヨタ自動車の利益構造の分析により導きだしている。さらには安倍がよく言う「15年にも及ぶデフレを克服して」というフレーズもリーマンショック前の数年間においてはデフレではなかったとして批判の対象とされている。

第二第三の矢については氏の論調と私の認識とでは大きな違いはなかったが、第一の矢の円安・株高効果については私も完全に安倍のペテンにかかっていたわけで、この年になって多少は世の中の動きが見えるようになってきたという自負も打ち砕かれてしまった。

この本は例の「1億総活躍社会」論が打ち出される前の本なので、当然それに対する言及はないが、もし氏が言及されるとなると、以前にブログで書いた私の批判以外の論点もあるのかどうかが気になるところである。誰の意見だったかは忘れたが、「1億総活躍社会」論における三本の矢は矢ではなくて的であると論じていた。つまり、到達すべき目標(的)が述べられているだけで、そこに至る道筋(矢)が示されていないということだが、まさに至言である。

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