日本アルプス二百名山全山登頂と伊藤新道入口
当初予定では湯俣から三俣山荘までを登りか下りで踏破するつもりだったが、今の体力ではテントまで担いで通過することは困難が予想されたし、山小屋利用ではかなり前から予約しなければならず、好天をつかんでの山行は難しい。そこで変則的ではあるが、ブナタテ尾根から烏帽子、野口五郎を経て竹村新道を湯俣まで下り、そこから伊藤新道の川の部分の終点である茶屋までを往復することにした。この予定では伊藤新道を軽装で行動できる外、前進が困難な場合にも撤退が容易というメリットがあるだけでなく、過去三回近くを通過しながら登頂できていなかった烏帽子岳を登って日本アルプスの二百名山全山登頂を果たすこともできるのだ。
伊藤新道の徒渉を考えると本来ならば沢靴と山靴の両方を用意すべきであるが、それでは荷物が多くなりすぎるので、山靴はやめて原則的には沢靴で山道を歩くこととし、可能な所はサンダルでも歩くこととした。GWの毛勝でも雪が出てくる所まではサンダルで登り特に問題はなかったので、ブナタテ尾根でも可能な所まではサンダルで登ることとした。ただ沢靴を入れたナップザックを肩にかけて、いつでも履き替えられるようにした外、サンダルが脱げてしまわないように後ろの部分のゴムバンドで固定するようにした。
果たして成果はいかに。なんと、稜線までサンダルで問題なく上がれてしまい、コースタイム6時間の所を休憩を含めて7時間で上がれてまずまずであった。テン場は小屋から少し離れていて、水やビールを買いに行くのが少し不便であったが、それだけ静かなキャンプを楽しめた。テントを張り終えて景色を眺めながらビールを飲む至福の時を過ごしてから、未踏の烏帽子岳登頂に向かう。
烏帽子岳は名前の通り尖った烏帽子型をしているので、岩場も出てくるかもしれないと思い、沢靴を履いていくことにした。頂上までは細かいアップダウンが続くが、いざ山頂目指しての登りになると、意外にも樹林帯の登りが続くことになったが、最後には岩場が出てきたので、やはりサンダルで来なくてよかったと思った。
帰り道で小屋の前を通った時に水を買って行こうかなとも思ったが、必要量は晩と朝の食事が終わった時点の水の残量を確認してからの方が良いと思い直して、明日の朝の出発前に買いにくることにした。
翌朝4時に水を買いに行くと、水の販売は5時からだと言われる。手持ちの残量は一リットルほどで、次に水が買えるのはコースタイムで3時間半とされている野口五郎小屋だが、ここで1時間も待つわけにはいかないので、節約してなんとかもたせることにした。
ただ烏帽子キャンプ場から野口五郎までの長い行程では前日の疲れと雨に濡れたテント等の重さからペースが上がらず、小屋まではコースタイムの倍近くかかってしまった。小屋で1.5リッターの水を買い、これでなんとか湯俣までもつだろうと考えたが甘かった。湯俣に直接下りる竹村新道はかなりの難路で時間がかかり、暗くなる前に湯俣岳山頂手前の平坦地にテントを張らざるを得なくなった。水は節約してなんとか0.5リッターは翌日分として残すことができた。
翌日、湯俣に着いたのが昼近くとなり、第一吊橋までの往復に計画縮小となった。第一吊橋までは徒渉なしに右岸通しに行けるのだが、途中で左岸にある温噴丘に立ち寄ったため二回徒渉することとなったものの、好天が続いたせいか水量も膝程度までで、特に困難は感じなかった。ただ途中でサブサックのジッパーが壊れてしまい、荷物が背負えなくなってしまったのは困った。とりあえず空身で第一吊橋まで行って戻り、水や食料は平らげ、厚着した衣服のポケットに装備を詰め込んでなんとか帰ることができた。
第一吊橋から第二吊橋までが核心部とのことで、そこを通過してないのでなんとも言えないが、中級適度の沢登り経験者ならば特に困難は感じない(多分)コースであると思われた。伊藤新道は50年ほど前は地図にも記載されていたコースで、いつかは行こうと思っていたら廃道になって行き損ねのコースとなってしまったが、今回の再開通に合わせて『覗き見」が出来たので大満足したため、再度訪れることはないだろうと思う。
最終日は高瀬ダムまでの八キロほどのコースだが、高低差が100メートルほどなので、ゆっくりした下りが続くのかと思いきや、前半はかなりのアップダウンが続き、全く下っているという感じはしなかった。後半は工事車両用の道でほぼ緩い下りが続いたか、前日の徒渉で濡れてしまった沢靴を履く気になれずサンダルを履いたため、細かい砂利が足裏に溜まってしまい歩きにくかった。それでもほぼコースタイム通りに高瀬ダムに着くことができた。
ダムにはタクシーが2台客待ちをしていたが、タクシーで乗り継ぐ七倉からのバスは午後は3時過ぎまでないので、あまり早く着き過ぎても時間を持て余すと思い、相乗り客を待っていたら、20分ほどでブナタテ尾根から下りてきた登山者がいて、七倉には1時前には着くことができた。七倉では名物のダムカレーと生ビールで数日間の貧弱な食生活に別れを告げ、露天風呂で疲れを癒やして帰途に着くこととなった。
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